【小説】『伊坂幸太郎』全作品、一挙紹介してみた(パート2)
前回に続きパート2です。パート1はこちら。
今回は『アヒルと鴨のコインロッカー』『チルドレン』『サブマリン』『グラスホッパー』の4作品を紹介します。出版順に書いていこうと思っていましたが、続き物がある作品は一緒に書いた方がわかりやすいか!と思い、路線変更してます。笑
ここのラインナップが実は一番好きかもしれない。大好きな作品が続くので、思いのままに書きます。
伊坂幸太郎作品、一挙紹介(パート2)
アヒルと鴨のコインロッカー
あらすじ
引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は――たった1冊の広辞苑!? そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ! 清冽な余韻を残す傑作ミステリ。第25回吉川英治文学新人賞受賞。
この作品は、何の先入観もなしに、頭の中で配役を立てて読み進めてほしい。きっと途中で、自分の立てた配役に違和感を覚えるはずです。「あれ、この配役合わないかも」と。その違和感こそ、伊坂マジックに陥っている証拠です。そして最後に、その違和感の正体を知るんです。「やられた!」と。満足気に笑みを浮かべながら、膝を打っている自分がいるんです。
印象に残ったシーン
河崎は照れ臭そうに唇を曲げて、それからこう言った。
「神様を閉じ込めに行かないか?」
はじめて会った時と、まったく同じ印象を受けた。
あ、これは悪魔の言葉に違いないな、と思ったというわけだ。
「神様を閉じ込めに行かないか」なんともお洒落な言葉だ。伊坂さんの作品には節々にお洒落な言葉が隠れているように思う。
切なくもあたたかな嘘と真実。桜の花びらが目の前を舞っていくような、それをぼんやりと眺めているような、そんな優しい気持ちになれる一冊です。
おすすめポイント
・途中覚える“違和感”からの、巧妙な種明かし
・なんとなく懐かしい気持ちになる作品
・ボブ・ディランの曲をBGMに流しながらどうぞ
チルドレン
あらすじ
俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々――。何気ない日常に起こった5つの物語が、1つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。(引用:amazon)
どこに行けば陣内と出会えるのだろうか。ついつい現実世界に彼の存在を求めてしまう。
陣内のような人が近くにいたら、私は仲良くなれるだろうか。遠巻きに見てしまうだろうか。怪訝そうな顔を浮かべて、遠ざけてしまうだろうか。
そうじゃなければいいな、と思う。彼のペースに巻き込まれてしまいたい、と願ってしまう。きっと毎日が刺激的で愉快になるだろうし、退屈してる暇なんてなくなると思うんです。
印象に残ったシーン
「世の中に『絶対』と断言できることは何ひとつないって、うちの大学教授が言ってたけど」わたしはとりあえず、識者の言葉で説得を試みた。
「『絶対』と言い切れることがひとつもないなんて、生きている意味がないだろ」
デタラメなことを言っていても、陣内が言うとなんだか納得してしまうんですよね。例えば、つぶ餡とこし餡の二種類があったとして、陣内の場合は「潰せばこし餡になるんだから、一石二鳥だよなあ」と、迷わずつぶ餡を選ぶ。
めちゃくちゃだ!屁理屈だ!と思いながらも、心の内では「な、なるほど」と感心してしまう。そんな不思議な力(?)をもった人物が登場する一冊です。
おすすめポイント
・陣内。とにもかくにも、陣内。
・ クスリと笑えて、読後、前向きな気分になれる
サブマリン
あらすじ
家裁調査官である陣内と武藤の腐れ縁コンビは、無免許運転のあげく歩行者をはねて死なせた少年・棚岡佑真の面談に当たっていたが、彼はなかなか話に応じない。棚岡は自らも交通事故で両親を失っており、やがてその後も交通事故に巻き込まれ友人を失っていたことが判明する。その加害者の少年を、陣内が担当していたことも。いっぽう武藤は、ネット上で暗躍する脅迫文投稿者に脅迫状を送り付けたあげく自首した少年・小山田俊の試験観察も担当していたが、ある日俊がネットの殺人予告者が犯行に移そうとしていると伝えてくる。物語は棚岡と小山田というふたりの加害者少年を軸にまず動いていくが、読みどころはやはり陣内の相変わらずの変人ぶり。武藤にいわせれば、「自信満々で何でもできるような態度で、はた迷惑な人」だが、実は棚岡の事件とは深い関わりがあり、そこから意外な一面も浮かび上がってくる。(引用:amazon)
上述『チルドレン』の続編として、12年の時を経て出版された本作。前作が一話完結型の連作短編集だったのに対して、本作は、“少年が起こした交通事故”を題材とした長編小説になっています。
本作については、伊坂さんのインタビュー記事が印象的だったので一部転載します。
たとえば、交通事故って、本当にやりきれないものですよね。何の罪もない人が突然命を奪われる。実際の事故の報道に接したりすると、僕自身、そこに加害者に対しての怒りしか覚えないですし、やりきれない。
でも逆に、その加害者には重い持病がありました、と聞けば、僕はすぐに、ああそうだったんだそんな事情もあったんだ、って加害者に同情する気持ちを持ってしまう。
でもまた逆に、持病があったにもかかわらず加害者は病院に通っていなかったと報じられると、なんなんだよふざけるなよ、ってまた怒りがわいてくる。
揺れ動いちゃうんですよ。被害者はもちろん被害者のままですけど、いったい誰を責めたらいいのか分からなくて。
だから、そういうことを、嫌だけど、書く。そういう結末がはっきりしないものを、書いてみよう、と決めたんですよね。
善か悪か。是か非か。白か黒か。
「真実はいつもひとつ!」なんて某漫画の主人公は言うけれど、その真実に向けられる世論や感情、その真実の裏にある背景や事情は、決して一括りにはできやしないのだと、本作を読んでいて思いました。
世の中の物事の大半は、曖昧模糊なのだと。
印象に残ったシーン
目の前にいる子供が、もし将来、ヒトラーになるのだとすれば、殺害するのは良いことなのか悪いことなのか。
良いこととは言い難いにしても、それは許される部分があってもいいのではないか。
やるせないことだらけの中で、陣内という存在自体が、 ひとつの希望のように思えてくる。こんな大人がいるのであれば、世の中捨てたもんじゃないかもなって。そんな風に一筋の希望を感じながら読むことができる一冊です。
おすすめポイント
・今回もやっぱり陣内。なんてたって陣内。
・伊坂幸太郎作品の中では題材がリアルな為、日頃感じている理不尽さや、やるせなさ、もやもやとした感情を照らし合わせながら読むことができる。
グラスホッパー
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2007/06/23
- メディア: 文庫
- 購入: 13人 クリック: 172回
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あらすじ
元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。復讐を横取りされた。
鈴木は正体を探るため、「押し屋」と呼ばれる彼の後を追う。
一方、自殺専門の殺し屋「鯨」、ナイフ使いの殺し屋「蝉」も「押し屋」を追い始める。
それぞれの思惑のもとに――「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。
疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説!(引用:amazon)
なにげにハードボイルド好きな私。したがって、本作の設定は、読む前から胸踊るものがありました。単なる殺し屋ではなく、なんと特徴のある殺し屋たちなのか!と。
そして、この作品は、様々な憶測がある作品ですよね。どこからどこまでが現実でどこからどこまでが幻なのか、と。
私個人としては、この作品に出てくる殺し屋ふたりは「鈴木」の幻影だと思っています。「鯨」を無意識のうちに苦めている罪悪感は、表社会から裏社会に飛び込んで、何の罪もない人にドラッグを仕向けてきた鈴木の罪悪感に重なりますし。(実際に自分の手で渡しているわけではないが結果として薬漬けの人を作り出している=鯨の自殺を促すという殺し手段に似ている)「蝉」が感じている雇用主からの呪縛も裏社会に飛び込んでからの「鈴木」の状況を映している。そんな風に考えられるな、と。(あくまで私個人の意見です)
印象に残ったシーン
「今、この国では一年間に何千人もの人間が、交通事故で死んでいる」
「らしいですね」
「それなのに、車に乗るのはやめよう、とは誰も言い出さない。面白いものだ。結局、人の命なんて二の次なんだ。大事なのは、利便性だ。命より利便性だ」
ドストエフスキーの「罪と罰」がひとつのキーワードになる本作。読み込むほどに、いろいろな憶測や思考が頭を飛び交うでしょう。そして読み終えた後、誰かと討論を交わしたくなる一冊です。
おすすめポイント
・THEエンターテインメント、奇抜な設定に酔いしれる
・読みこむほどに、読み方が変わる不思議な作品
ということで、第2弾終了!次回は『死神の精度』からご紹介します。それにしても、1回につき4作品ずつだと時間かかるなあ。。。今月中には全て紹介し終えて、まとめ記事作りたいな。
以上!