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日々、てくてくと。

本・漫画・ハロプロネタを中心に日々考えてることを気ままに。

【小説感想】12月1日は映画の日!映画好きによる映画好きのための小説『キネマの神様』

 

「12月1日は何の日?」「映画の日

ということで今回は、私が好きな映画をご紹介!

ー…するのではなく、原田マハさん著の“ 映画好きによる映画好きのための小説 ”『キネマの神様』について書こうと思う。ちなみに、映画の日は1956年に映画産業団体連合会が制定したらしい。ぜひ、薀蓄のひとつとしてお見知り置きを。

  

キネマの神様 (文春文庫)

 

ただ、好きだ。それだけなんだ。

 

原田マハさんの作品を読んだのは本作が初めてだった。

読み終えて一番に思ったことは「この作者は本当に映画を愛しているんだな」ということだ。本作には実在する映画のタイトルがいくつも出てくる。その作品ひとつひとつに、そして映画という娯楽そのものに対する、作者の恋慕や敬意がひしひしと伝わってくるのだ。本作に出てくる登場人物たちの台詞は、きっとそのまま作者が思っていることなのだろうと思えてくる。

では、簡単にあらすじを。

 

 本作は、39歳の独身女性【円山歩】の視点から綴られている。歩は国内有数の大手デベロッパーに勤務し、「開発地区に映画館を中心とした文化施設を作る」というプロジェクトの課長を担っていた。しかし、女性社員の昇進をよく思わない社員による根も葉もない噂が広がったことにより、歩はそのプロジェクトを外され、17年間勤めた会社を辞職することに。その後、ひょんなことから映画雑誌『映友』を発行する会社に入社することになる。

 

さて、いよいよ歩を中心に物語が動きだすのか。・・・と思っていたが、実は本作。スポットライトを最も浴びるのは、【歩】ではなく、歩の父親なのだ。この父親【(通称)ゴウ】は、どうしようもないギャンブル好きで長年家族を困らせていた。 病気を患って入院しても病院を抜け出してギャンブルへ。果てには多額の借金が発覚する。

 

しかし、そんなゴウにも健全とも言える趣味があった。それが、映画だ。行きつけの小さな名画座、【テアトル銀幕】の真ん中の席は、いつだってゴウの特等席なのである。

 

そんなゴウが、これまたひょんなことから、歩が転職した会社で映画ブログをスタートさせることになる。そして、いよいよ始まるのだ。ブログというツールを通して、ゴウローズ・バッドと名乗る人物との映画論争が。

 

本作は野球賛美の映画である以上に、家族愛の物語なのです。 ーと、ゴウがブログに書けば、ー君はこの映画が「家族愛の物語」だと書いていたが、そんなに単純なものであれば、我々はもっと気楽にこの映画を堪能することができただろう。ーと、すかさずローズ・バッドがコメントをする。そんな論争が、実在する数々の映画に対して繰り広げられるのだ。

 

ローズ・バッドの正体については驚きとしか言いようがないが、こちらはネタバレになるので書くことは控えておく。

とにかく、ゴウそしてローズ・バッドの映画論争がとてつもなく面白いのだ。そして羨ましい!という気持ちを抱かざるをえないのだ。好きなものについて、これだけ意見を交わすことができるゴウやローズ・バッドに対して、嫉妬してしまうのだ。この嫉妬心は、本作を読めばきっと理解してもらえるだろう。好きなものを通して、戦友?盟友?と呼べるような相手と巡り会える。うん、とにかく羨ましい。

 

私は映画が好きだ。ただ、好きだ。それだけなんだ。

君とその思いを共有できて、私は幸福だった。

できることなら、君と一緒に、いちばんお気に入りの映画館で、いちばん好きな映画を見たかった。

そうだ、バターをたっぷりかけたポップコーンをほおばりながら。

(文庫版P314:ローズ・バッド)

 

この一節を、私は電車の中で読んだ。失態だった。

帰宅ラッシュの満員電車の中で、私は涙をこらえられなかったのだ。無理矢理泣き止もうとして逆に嗚咽を漏らしてしまったほどだ。人前で泣いてしまった羞恥心を感じながら、それでも、涙を止めることができなかった。

 

悲しいとか切ないとか、決してそんな感情から泣いたのではない。上述したとおり、ただただ羨ましかった。そして、私もそんな相手が欲しいと思った。好きなものを、好きなことを、「ただ、好きだ」、という気持ちだけで語り合い共有することができる相手と出会いたいと思った。願わくば、このブログもそんな出会いの場のひとつになればいいなと思う。 

 

※ちなみに。『キネマの神様』に登場する映画については以下ご参照。

matome.naver.jp

 

※ちなみに。

『キネマの神様』に登場する映画館【テアトル銀幕】は恐らく飯田橋にある名画座【ギンレイホール】を模していると思われる。近くに住んでいるので、何回か行ったことがあるが、たまに行く名画座って、いわゆるシネコンと違って、また良いんだよなあ。名画座って何?名画座って一度行ってみたかったんだよね!って方は、以下ご参照。

飯田橋ギンレイホール