【感想】『阿弥陀堂だより』肩の力を抜いて自然と生きるということ
約2ヶ月ぶりのブログ更新です。気を抜くとすぐに怠けてしまうのでダメですね。
アクセス数も減ってるだろうなあと思っていたところ、むしろ増えていて驚いています。こちらの記事を読んでくれている人がとても増えているみたいで。 ありがとうございます。
ということで、復帰(?)第一回目の投稿は小説の感想にします。
さて私、3月末で地元から東京へ上京してきて8年目を迎えます。
7年が過ぎた今でも、東京は本当に刺激的な場所だと思います。
遊ぶところはたくさんあるし、面白い人もたくさんいる。お洒落なカフェや流行の最先端をいくお店、毎週のようにどこかで行われているイベント。
飽きることなく過ごすことができる場所ですよね。
でもいつからでしょう。ゆっくりと歩く前の人が邪魔だと思うようになったのは。我武者羅に頑張っていないことが格好悪いことのように思うようになったのは。時間に追われ、いつも何者かであろうとしている気がします。
東京という街のせいではないかもしれませんが、東京という街にいるからこそ、色濃く感じてしまうのだとも思います。
こんなこと書くと「疲れてるの?」と言われそうですが、もしかすると東京での生活にちょっぴり疲れてきているのかもしれません(笑)だからこそ、今から紹介するこの小説がグッと心にきたのだと思います。
実はこの作品、高校生のときにも一度、父に薦められ読んでいるのですが、その時は全く面白くなかったんです。なので、「今が最高!イェーイ!」という人よりも「最近疲れてるなあ」「そもそも頑張るってなんだっけ?」なんて、思いがちの人にぜひ読んでみてほしいですね。
阿弥陀堂だより
あらすじ
作家としての行き詰まりを感じていた孝夫は、医者である妻・美智子が心の病を得たのを機に、故郷の信州へ戻ることにした。山里の美しい村でふたりが出会ったのは、村人の霊を祀る「阿弥陀堂」に暮らす老婆、難病とたたかいながら明るく生きる娘。静かな時の流れと豊かな自然のなかでふたりが見つけたものとは……。(文藝春秋BOOKSより)
妻・美智子は、癌の専門医として最先端の医療を担うエリート女医だったのですが、不妊のすえにようやく授かった子供が子宮内死亡した頃から、心のバランスを崩してしまいます。
夜は眠れず睡眠薬を飲む毎日。人通りの多い場所へ行くと動機が激しくなり立っていることもままならない。通勤さえもできなくなります。
そんな妻に診断された症状が「恐慌性障害(パニック・ディスオーダー)」でした。発症してから最初の数年は東京でなんとか症状を治めようと様子をみるのですが、一向に良くならず。
夫婦は、夫が大学生になる前まで過ごしていた田舎へ移り住むことを決意します。
そこで出会った自然、文化、人々。ゆっくりと流れる時間の中に身を置くことで、妻の症状も回復の兆しをみせ・・・。
というあらすじなのですが。これといって強弱があるわけでもなく。衝撃的な出来事が起こるわけでもなく。ゆっくりと話は進んでいきます。けれど、じんわりと確かに。心の中に大事なものがひとつひとつ積み重なっていく。そんな一冊です。
おうめ婆さんのお言葉
本作の登場人物として欠かせない存在が、阿弥陀堂に暮らす阿弥陀堂守のおうめさんです。齢96を重ねたお婆さま。食べるものは庭の畑で自給自足をし、用を足すにも畑に穴を掘って行うという、まさに自然とともに生きるおうめ婆さんなのですが。このおうめ婆さんの言葉にとても癒されるのです。スッと肩の力が抜けるのです。一部紹介しますね。
目先のことにとらわれるなと世間では言われていますが、春になればナス、インゲン、キュウリなど、次から次への苗を植え、水をやり、そういうふうに目先のことばかり考えていたら知らぬ間に九十六歳になっていました。目先しか見えなかったので、よそ見をして心配事を増やさなかったのがよかったのでしょうか。それが長寿のひけつかも知れません。
(出典:文庫版P96-97)
九十六年の人生の中では体の具合の悪いときもありました。そんなときはなるようにしかならないと考えていましたので、気を病んだりはしませんでした。なるようになる。なるようにしかならない。そう思っていればなるようになります。
(出典:文庫版P144)
「将来どうなりたいのか。そのために今何をしなければならないのか。」社会人になりたてのころ何度も問われました。そのたびに、目標がないことに焦りを覚えたり、目標に近づけていないことに嫌気がさしたり。どっと疲れてしまうこともしばしばありました。でも最近、(ちょっとニュアンスは違うかもしれませんが)おうめ婆さんが言うように、目先のことにコツコツ向き合っていれば、知らない間に良い方向に進んでいることもあるんじゃないかと思うようになりました。どうですかね?甘いですかね?
まあ、人生。なるようになる。なるようにしかならない。たまにはそんな風に肩の力を抜いて一息つくのも大事だと思うのです。
映画版で癒し効果倍増
「阿弥陀堂だより」ですが、映画化もされております。
映像化されることで自然の美しさが際立ち、とても素敵に仕上がっています。なんといっても、おうめ婆さんを演じる北林谷栄さん(この作品で初めて知りましたが)の演技がなんとも自然で。これは演技?え?現地の人を使ってるの?と勘違いするほどでした。原作同様、とても静かな作品ですが、何度も涙を流してしまいました。ぜひご覧ください。